画像出典 http://weheartit.com/

「こんな『モンスター』を抱えていけない」――2015年8月8日、浜崎あゆみがNHK総合の番組「SONGS」に出演し、人気絶頂だった20歳前後のことを振り返って語ったことばだ。あの頃の『あゆ』は、たしかにモンスターだった。その「モンスター性」は、若い女性たちの外見、内面ともに影響を与えた。今もまだ、多くの若い女性の心には「あゆのモンスター」が住んでいて、どこかで理想の「顔」そして内面の鋳型を作っている。

「浜崎あゆみの目になりたい」

浜崎あゆみのデビューは90年代後半。瞬く間に「女子高生のカリスマ」になった。あゆの顔が際立って特徴的な美しさだったのはもちろん、歌詞や生き方に何となく感じられる「トラウマ」感が、若い女性たちをとりこにしたのだ。あゆは冒頭の番組で、歌を通して「楽しいことだけじゃなくて、痛みをシェアしたかった」と語っている。

歌詞に共感する女性たちの一部は、あゆの「顔」になりたいと願うようになった。2000年頃から現在にいたるまで、ギャル系を中心とした女性たちにとって、「理想の顔は浜崎あゆみ」だ。細い顎に、怖いほどスッと伸びた鼻筋、目頭から目尻までの二重の幅が変わらず、二重まぶたの幅が広くて華やかな「幅広並行二重」が特徴。日本人に多い、目頭から目尻までが末広型になった二重(芸能人でいうなら石原さとみや綾瀬はるかのような)とはちがう。あえて欧米人風でもなく、かといってアジアンビューティー系でもない、ただただ「お人形=ドール」のような顔立ちは、金髪に派手なメイクのギャルたちから熱烈に支持された。当時はプチ整形も流行りだした頃。「あゆの顔になりたい」と、美容外科を訪れる女性が増えていった。

全盛期の浜崎あゆみ

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「あゆになりたい」と公言して整形するギャルたち

元「egg」のモデルで現在は「姉ageha」の専属モデルをつとめる小原優花は、テレビのバラエティ番組で「あゆに似せるメイクのクオリティを上げたくて、歯を120万円以上かけて矯正した」と語っている。彼女は10代の頃から浜崎あゆみが好きで、読者向けのブログに載せる「自撮り写メ」では、たびたび「あゆに似ている」と言われるのが嬉しかったとも言っている。写真を見ると、確かに読者モデルとしてデビューした当時より、今のほうが「あゆの顔」に似ている。

あゆの顔を手に入れたいと願い、それを公表する女性は珍しくない。「小悪魔ageha」で読者モデルとして活躍するキャバ嬢の一条ありさも、10代の頃「あゆの顔に衝撃を受けて」、プチ整形や美容整形を繰り返し、今はかなり満足しているという。ギャル系女子の多くは、こうした読者モデルの影響を受ける。そして、美容外科を訪れるのである。

10~20代女性の「50%強の方が幅広平行の二重を希望」

全国で美容外科を展開する高須クリニックの高須幹弥医師によると、「最近の10~20代の女性の二重まぶた手術希望の方は、50%強の方が幅広平行の二重を希望する」という(参照:『腫れぼったいまぶたの方に幅広平行二重をつくると不自然になる?』2011年3月10日)

幅広並行の二重とは、いってしまえば浜崎あゆみのような目のことだ。まぶたの幅が広く、ハーフタレントのような華やかな目。高須幹弥医師がこのブログを書いた2011年当時、浜崎あゆみの人気は絶頂期より「一段落」していたと思う。それでも「二重まぶたにしたい」10~20代女子の過半数は、「あゆみたいな目になりたい」と、無意識にしても考えているのである。これはすごいことではないか。あゆの顔は、デビューから10年以上たっても「理想」として君臨し続けているのだ。

筆者が『整形した女は幸せになっているのか』を書くため、インタビューした20代前半の女性たちも、「究極の理想はあゆみたいな目です、まあ無理だとは分かっているけど……」とか、「目は大きければ大きいほどいい」などと語ってくれた。一部の若い女子にとって、まだまだ「あゆの目」は理想なのだ。

浜崎あゆみの顔は「逸脱」しているからこそ美しい

美容外科のタカナシクリニックを運営する外科医、高梨真教氏によると、人間の顔には「美人」にみえる “黄金比” がある。が、浜崎あゆみの顔立ちは、良い意味で、この黄金比から「逸脱」しているという(参照:中村うさぎ×高梨真教著『マッド高梨の美容整形講座』マガジンハウス、2006)。彼女の顔は、目が「黄金比美人」よりも大きすぎ、鼻筋は通り過ぎ、顎は細い。その「逸脱」が、多くの若い女性の心を掴んでいるのだ。

彼女の影響力の強さは、60年代に来日し、若い女性の身体観を変えたといわれるスーパーモデル「トゥイギー」の再来を思わせる。トゥイギーは、小枝のように細い体に、過剰なまでに大きな幅広並行の二重まぶただった。60年代には、彼女を支持する女性たちのため、「トゥイギー風メイク」を叶える「つけまつげ」が発売されている。小さな顔に、大きな目。このブームはその後、あゆの登場によって確固たるものとなった。今でも多くの女性の美的感覚、そして美容整形に影響を与え続ける浜崎あゆみの「顔」。それもまた、彼女が語った「あゆという『モンスター』」の一部かもしれない。

トゥイギー

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yuki

北条かや

1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo

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北条かやライター

1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。

同志社大学社会学部卒
京都大学大学院文学研究科修士課程修了
民間企業勤務を経てライター、著述家として活動

出演
『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)

著書
『キャバ嬢の社会学』(2014年星海社新書)
『整形した女は幸せになっているのか』(2015年星海社新書)
『本当は結婚したくないのだ症候群』(2016年青春出版社)
『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(2019年青春出版社青春文庫)
『こじらせ女子の日常』(2016年宝島社)
『インターネットで死ぬということ』(2017年イースト・プレス )