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加齢による様々な体の不調やこれまで可能であったことが不可能になる苦痛、衰えていくことへの恐怖など、エイジング=老化に対して若返りの治療をアンチエイジング治療といいます。

現代ではハイフや糸リフトなど多様なアンチエイジング施術だけでなく、さらにバックエイジングという細胞からの若返りに注目が集まっています。ただ見た目が若返るというアンチエイジングではなく、細胞からの若返りがクローズアップされることが多く、点滴やサプリメントで欠乏しているビタミンや成長因子などを取り入れるということが美容医療では一般的になってきました。

その中でも特にバックエイジングができる薬剤として注目されているのがNMNです。成長因子やサイトカイン、エクソソームなど様々な薬剤がありますが、NMNはとても人気があります。

NMNというと、なんと読むのかわからない、また、何かわからないものを体内に入れる抵抗感を持っている方もいるため今回はそのNMNについて論文を用い詳しく解説していきます。

【監修医師からのワンポイント】

NMNは主に生きるためのエネルギーを作り出すミトコンドリアとサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化する補酵素です。このNMNは私たちの体内で作られるものですが加齢に伴い、減少してしまいます。そうすると十分なエネルギーを作り出すことができず、疲れやすかったり病気になりやすくなってしまいます。アンチエイジング、健康のためにNMNを点滴やサプリメントで上手に日常で取り入れることが大切です。

NMNとは

NMNとは、ニコチンアミドモノヌクレオチドといい、ビタミンB3に含まれている成分です。ブロッコリーや枝豆などの緑黄色野菜にわずかに含まれており、必要な分のNMNを摂取しようとすると毎日大量の緑黄色野菜を食べる必要があるのです。

NMNは体内でどのように使われているかというと、人の体内に入るとNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という物質に変換され、これが人の健康や老化防止のサポートをするので体の健康を維持し、病気の予防や改善に役立つ可能性も秘めています。

詳しく説明すると、NMNは、NAD+に変換されてミトコンドリアという体の中の細胞でエネルギーを作り出す際に必要な補酵素として働きます。そのため、NMNが不足するとエネルギーが作り出せなくなってしまうのです。そして、NMN(NAD+)は人間や植物の体内で自然に作られる物質なのですが、10代後半をピークに減少し、加齢に伴い40代では10代の半分以下になると言われています。NMNが不足することにより体の老化が進行すると考えられています。

このNMNの重要性を世界で初めて発見したのはワシントン大学の今井眞一郎教授です。今井教授は35年以上にわたり老化・寿命研究をされており、サーチュイン(老化や寿命の制御に重要で、カロリー制限により活性化される酵素の一種)と抗老化物質NMN研究の第一人者です。

2016年に動物試験での論文を発表され、2021年にはサミュエル・クライン教授と今井教授の共同研究によりヒトへの臨床試験に関する論文がアメリカ科学誌『Science』のオンライン版に掲載され、世界中の研究者に大きな影響を与えています。今井教授はプロダクティブ・エイジングを実現できるようにするため多くの人が健康寿命を伸ばすことを目的として研究されているそうです。

プロダクティブ・エイジングとは、ロバート・N・バトラー博士の作った言葉であり、死ぬ直前まで健康を保って人生を楽しみ、生産性を維持し社会に貢献し続けながら年齢を重ねることを示しています。ただ、寿命を伸ばすのではなく心身ともに健康的に人生を送るための研究をされた結果、NMNの重要さを発見されました。

患者様の中でもこれからも元気でいたい、健康で楽しく過ごしたいとの想いでクリニックに来院される方が多いため、抗老化においてとても大切な考え方であると私は思いました。そうした思いを持って、日本人の教授による研究ということもありメイドインジャパンへの信頼からNMNは日本人だけでなくインバウンドからも人気を博しています。

ただ、健康や若返りに良いと言ってもNMNは摂取して安全な物質なのかという疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが、すでに安全であるという研究結果がいくつか出ています。12週間にわたって高齢者が摂取している研究※1では悪影響は確認されていません。また、健康な成人の男性と女性で1日あたり1,250mgのNMNを経口投与で接種した研究※2でも安全で忍容性が高い(副作用が比較的軽い)ことが示されています。その他いくつか論文でも安全性が確かめられているため安心して摂取することが可能です。

NMNはどうやって摂る?

NMNはわずかに緑黄色野菜に含まれていますがブロッコリーでは9kg、枝豆でも5kg食べなければ補えないためサプリメントや点滴での摂取を推奨します。サプリメントも今ではネットや通販で購入できるようになっていますが、国産のNMNであるかやしっかりNMN量を測定しているかに関してチェックした方が良いです。なぜならNMNとうたっていても本当にそのmg数が入っているのか、安全性の高い原料を使用しているのかわからないものもあるからです。

クリニックや病院で取り扱っているものは安全なものがほとんどですので医療機関での購入をおすすめします。また、点滴に関しては標準体型の女性だと100mgから200mgで効果を実感でき、男性では200mgから500mgで効果を実感できると言われています。

さらに、点滴も2週間から1カ月に1度行うことでより効果実感や効果の持続ができるため定期的に補うことが重要です。補わなければNMNは不足するため、継続して体内に一定の濃度を保つことにより若返りの効果を実感しやすくなります。

NMNとエクソソームとの違いは?

エクソソームも今話題の成分です。エクソソームとは、情報伝達物質で人間の体内に元々あるものです。エクソソームは情報を伝える役割を持っているため、傷ついた細胞があればそこに集まり修復するように信号を出します。それにより細胞修復を促してくれるのです。

脳や神経など細胞は日々傷ついておりその傷ついた細胞を修復したり新しい細胞を作っているのですが、新しい細胞を作るための幹細胞が生まれた時には60億個以上あるものの加齢により数が減り、60歳前後では1.5億個程度になってしまいます。幹細胞数が減ってしまうことにより、細胞の修復が効率的にできなくなってしまうため老化が進んでしまうのです。

NMNは補酵素として使用され、ビタミンの一種なのに対して、エクソソームは他の細胞に指令を出し、他の細胞がサイトカインを放出します。目的や体の不調などによってどちらかを選んでも良いでしょう。
エクソソームの中にNMNをNAD+に変換するNAD+合成系酵素eNAMPTが含まれることがわかっているので、両方を投与することで相乗効果がより高まります。

疲れやすかったり寝付けない方や仕事で昔のように頭が働かないというお悩みを解決できる可能性が高くなります。実際に点滴される患者様も片方だけ補うよりも交互や同時に補う方が効果の実感がわかりやすいという方が多いです。

また、体質によって効果のわかりやすさがエクソソームとNMNとで変わってくるため両方とも体感してみて効果のある方を選ぶと自分に不足しているものを選ぶことができ効果の実感も得られやすいかと思います。

エクソソームはわかりにくかったがNMNはわかりやすかった、サプリメントの方が点滴よりも肌にハリが出たなど患者様にとっても感じ方が異なります。ただ、実感が少ないまたはない方でも体の内側の治癒をしてくれたり、エネルギーを作る補酵素の働きをしてくれるため効果はわからなくても不足する分補うことにより健康を増進・維持することができると言われています。

NMNの価格

NMNの価格ですが、サプリメントであれば1カ月分10,000円前後程度で点滴はmg数により価格が変動します。100mg 30,000円から50,000円程度が相場であるため初回価格のあるクリニックで点滴を行い、継続される場合は回数コースを購入される方がお得になります。

ただ、NMNの点滴でも質の良いもの悪いものはあるため、しっかりと見極めることが重要です。クリニックのホームページを読み込んだり、スタッフに話を事前に聞いておくことでどのようなNMNを使用しているのか理解した上で摂取することをおすすめします。また、内服に比べ点滴の方が身体への吸収率が高く、効果の実感も良いと言われているためまずは点滴で補ってあげると良いかと思います。

論文から見るNMNの本当の効果

実際に点滴をされている方やサプリメントで取られている方の中で疲れにくくなった、肌のハリが出た、夜ぐっすり眠れるようになった(睡眠途中で起きることがなくなった)、頭が冴えて仕事が昔のようにできるようになったというお声を実際に頂いています。

今井教授の研究結果※3でも1日250mgのNMNを10週間投与された閉経後で肥満あるいは過体重の糖尿病予備軍の女性ではNAD量が上昇して骨格筋(筋肉)のインスリン受容性が25%上昇し、骨格筋の再生を促す遺伝子の働きが高まったということです。

つまり、インスリン感受性が改善したことにより70キロの人が7キロ体重を落とした時に匹敵するほどの効果を得たのです。さらに、高齢者の睡眠の質や疲労、身体の能力に及ぼす影響についての論文※4では実際にNMNをグループ分けされた108人の高齢者に経口投与してプラセボ(偽薬)との有意差を見ているのですが、午後にNMNを摂取したグループは眠気の減少や睡眠の質の改善がありました。

つまり、午後にNMNを毎日摂取することで疲労感の軽減や睡眠の質が上がった可能性が高いということです。このようにいくつもの研究でNMNの効果が実証されており安心して摂取でき効果もある魅力的な成分だと言えるでしょう。

まとめ

アンチエイジング、バックエイジングはまだまだ研究段階にあるものも多く、何が有効であるのか安全性は確立されているのかなど気になっているけど不安だという患者様も多いため論文をもとに解説しています。

安全性も確立されており効果に対しても論文があるため不安な方でもまずは気軽にサプリメントから摂取されることをクリニックでもおすすめしており、実際に飲み始めてよかったとのお声を頂いております。

私の勤務しているクリニックでもサプリメントと点滴を扱っており、どのような機関で作られた、どのようなものなのか理解した上で患者様へご説明させていただいています。これからはさらにプロダクティブ・エイジングの考え方が浸透して寿命ではなく健康寿命を延ばすというところに着目されるようになると考えています。

そのため、私自身も多くの研究や論文に目を通し安心して摂取していただけるようにしていきたいと改めて感じました。この記事を通してNMNだけでなく、日本人の教授が世界的にも活躍されていることを知っていただければ幸いです。サプリメントや点滴だけを美容クリニックで行うのではなく、これからは健康的な食事や運動習慣などもサポートしている美容クリニックが増えているため、日々の生活を見直すきっかけにもしていただけたらと思います。

【記事の執筆・レビューに使用した参考文献等】

記事の正確性等の確保方法及び参考文献の取り扱いについては、Call to Beautyの編集プロセスをご覧ください。

※1 Effect of 12-Week Intake of Nicotinamide Mononucleotide on Sleep Quality, Fatigue, and Physical Performance in Older Japanese Adults: A Randomized, Double-Blind Placebo-Controlled Study
※2 Safety evaluation of β-nicotinamide mononucleotide oral administration in healthy adult men and women
※3 Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women
※4 Effect of 12-Week Intake of Nicotinamide Mononucleotide on Sleep Quality, Fatigue, and Physical Performance in Older Japanese Adults: A Randomized, Double-Blind Placebo-Controlled Study

*本記事内でご紹介した治療機器、施術内容は、個人の体質や状況によって効果などに差が出る場合があります。記事により効果を保証するものではありません。価格は、特に記載がない場合、すべて税込みです。また価格は変更になる場合があります。記事内の施術については、基本的に公的医療保険が適用されません。実際に施術を検討される時は、担当医によく相談の上、その指示に従ってください。

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トマト看

4年制大学の看護学科を卒業後総合病院のICUで1年勤務。その後、美容クリニックに勤務して3年目の、看護師としては4年目になる。美容クリニックはパート含め計6院の美容外科・皮膚科勤務歴があり使用した機械や介助についたオペも多い。高校生の頃から肌荒れに悩んでおり、スキンケアマニアのため市販のスキンケアやドクターズコスメの知識も豊富である。

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監修:

関根彩子 医師

銀座美容メディカルクリニック

鹿児島大学医学部医学科卒業。日本形成外科学会認定形成外科専門医。University of MiamiやJackson Memorial Hospital、Miami Children's Hospitalでの留学経験を積み、アメリカ医師国家試験のStep 1、Step 2を取得。その後、国内の大学病院などで形成外科の分野に従事。
都内の美容外科での勤務を経て、2022年11月に銀座美容メディカルクリニックを開院。自身はバイリンガルであり、受付も英語対応しています。クリニックでは、美容皮膚科、再生医療、エクソソーム点滴などを中心としたエイジングケア治療を提供する。
著書に『いつまでもずっと若々しくキレイに歳をとるための 身体と肌の再生医療の教科書』(クロスメディア社)。この書籍では、美しさをいつまでも持ち続けるための再生医療について、詳しく説明しています。

2007年 鹿児島大学 医学部医学科 入学
2012年 University of Miami 留学
     Jackson Memorial Hospital 留学
     Miami Children’s Hospital 留学
2013年 USMLE(アメリカ医師国家試験) Step 1 取得
     USMLE Step2 取得
2014年 日本医師免許取得
2014年 今給黎総合病院 勤務
2016年 昭和大学病院 形成外科 勤務
2017年 前橋赤十字病院 形成外科 勤務
2018年 千葉県こども病院 形成外科 勤務
2019年 今給黎総合病院 形成外科 勤務
2019年 都内美容外科 勤務
2022年 銀座美容メディカルクリニック 院長

執筆:

トマト看看護師

4年生大学の看護科を卒業後ICUを1年経験し、救急医療や重症看護を学んだ。その後、複数の美容皮膚科や美容外科で経験を積み美容看護師として働いて3年目になる。日頃からエビデンスやその方それぞれにあった美容医療を提案している。
患者さんからの指名も多く、美容の豆知識を呟いているX(旧Twitter)ではフォロワー2,500人と支持を得ている。

3次救急病院(ICU)
美容皮膚科
美容皮膚科・外科