とにかくすごい西野カナ

つい先日、「第49回 日本有線大賞」にて、初の日本有線大賞を受賞した西野カナ。デビューした10代の頃から、一貫して恋する女の子の気持ちを絶妙な歌詞とメロディーにのせて歌い続ける。男女ともにファンが多い。なんとなく凄いのだろう、と思ってちょっとウィキペディアを見ただけでも、彼女は色々とすごい記録を打ち立てている。

デビュー半年でシンディーローパーとツアーへ

デビュー半年でシンディ・ローパーのジャパン・ツアーに同行し、2010年にはCD不況の中、2枚目のアルバム『to LOVE』が95万枚の大ヒットを記録。デビューからわずか3年で、デジタル配信のダウンロード数が2500万を突破したという。

そういえば私も、初めてiTunesストアで買った曲は西野カナの「もっと…」であった。今、これを書きながら再生しているが、一定の覚えやすいリズムと切ない歌声が耳に心地よい。作業用BGMとしてもってこいだ。個人的な好みだが、彼女の曲は恋愛系と友情系のバランスが絶妙で、男女のドライブソングにも良い。「西野カナが好き」な女の子は、どこか親しみやすい。ちょっと可愛く見えるから不思議だ。

ダウンロードされまくった「トリセツ」

昨年は大ヒットした「トリセツ」をカラオケで歌う女の子をたくさん見た。伝えづらい女心、ややこしいけど可愛らしいところもあるんだよ、そんな私を分かってね、という「彼女」の気持ちを「取り扱い説明書」になぞらえて歌う「トリセツ」は、16年の「ソング・オブ・ザ・イヤー・バイ・ダウンロード」(邦楽)も受賞している。とにかくダウンロードされまくっているのだ。

トリセツの画像を保存する女の子たち

トリセツの画像を保存する女の子たち

ファンが「トリセツ」の歌詞をイラストや漫画で表現し、その画像がtwitterで何千RTもされているのを見ると、「ああこれは女子の画像フォルダに保存されて、時々見返してはニコッとされるコンテンツだ」と思う。かなり完成度が高い作品もあり、まとめサイトで紹介されたり、テレビで報じられたりしているようだ。「西野カナが歌う恋心の二次創作」は、女の子たちの共感を集め続けている。

もう「女の子」でなくなった私も、西野カナは好きだ。女性ファッション誌のインタビューで見事に流行の服を着こなし、「今、若い女の子たちが言ってほしそうなこと」を言ってくれる賢さが好き。一方、何度も出場している紅白歌合戦で歌詞を間違えてしまう人間らしさも可愛らしい。

もっと彼女のことを知りたいのに、西野カナはあまり自分について多くを語らない。良くも悪くも「量産型女子大生」のような背格好だから、「普通っぽ」すぎてなかなか深掘りできないもどかしさも魅力的だ。あんなに才能があるのに、どうして普通っぽいのだろう。

西野カナが男受けする理由

西野カナが、その才能にもかかわらず普通っぽいのには、彼女の外見も関係している。彼女がデビューしてから数年間の大ヒット連発時代、「西野カナってめっちゃ可愛いよね」という男性はたくさんいた。そして、そういう男性に対して口では「そうだよね~可愛いよね~」と言いながら、心の中では「チッ、西野カナって普通の顔なのに、濃いメイクでごまかして可愛く見せてるだけじゃん。そんなことにも気づかず、可愛い可愛い言ってる男はバカだな」と毒づく女の子も沢山いたのである(すみません一時は私もそう思ってました)。

典型的な「可愛く見えるギャル」

なぜって、大ヒットを連発していた20代前半の彼女は、金髪に近い茶髪、つけまつげに濃いアイライン、可愛いもこもこしたギャル服や小道具で、典型的な「可愛く見えるギャル」を演出していたからである。当時、2000年代後半は『小悪魔ageha』に代表されるようなガッツリ囲み目メイクが流行っており、つけまつげを下まぶたにもつけて「盛る」のが当たり前だった。

そんな風に盛って、さらに「会いたくて会いたくて震える 君思うほど遠く感じて(会いたくて 会いたくて)」とか「『じゃあね』って言ってからまだ 5分もたってないのに すぐに会いたくて(Dear)」とか「君の声が携帯でしか聞けない日々 メール返して一人待つのが 切ないね すぐ会えない君…(会えなくても)」なんて歌われたら、ギャル系女子がタイプな男子はすぐ「オチる」のではないか。大好きな人に、会いたくても会えないけど、今は我慢して一人頑張るね、私、寂しいけどあなたを待ってるから……なんて「可愛げ」しかない。ちょっと重たそうだけど、それを必死で抑えようとしている彼女。男受けしそうである。

西野カナは褒めてもダメ、けなしてもダメ

あの目元重視のギャルメイクと、ギャルの強さとは相反する「弱い私」な歌詞が妙にマッチして見えるのは、可愛い系のギャル、西野カナの見た目が「もともとそこまで美人ではなく、普通っぽい顔立ちなのに、大好きな彼氏に好かれようと一生懸命メイクして、濃い化粧になっちゃった重い女の感じ」だからかもしれない。ギャルなのに、万人受けする可愛さを身につけた西野カナは、その「あざとさ」を直感で見抜く女からは少し警戒される。

まあ「見た目は可愛いっちゃ可愛いけど、フツーだよね」(歌詞は悪くないけど)てな感じだ。そして、あざとい西野カナにすっかり騙されて「可愛いよなぁ~」とトボけたことをのたまう男子は「リトマス試験紙」にかけられて、「あ~……その程度なんだ、ふ~ん」と思われる。

正解は「ぶちゃカワだよね」

そう、西野カナは「リトマス試験紙」なのだ。彼女についてどう思うか聞かれて、最も女子からウケのいい反応は「ぶちゃカワだよね」である。もう10年来、西野カナについて色んな男女と議論してきた三十路女が勝手に断言する。

彼女のことは、褒め過ぎてもけなしすぎてもいけない。西野カナの歌詞は、たくさんあるからというのもあるけれど、ワンフレーズくらいは必ず女性の心に「刺さる」ように計算されているので、「私は西野カナなんて大キライです!」と明言する女性は少ない。それにあの外見。冷たい美人風でもなければ、モード風でキメキメのアーティストぶっているわけでもない。

積極的に「キライにはなれない」

女子がマネできる「ファッションリーダー」としての親しみやすさ、言い換えれば「普通っぽさ」も併せ持つ西野カナは、積極的にキライになる理由が見当たらないのだ。

だから、たとえば男性が「西野カナなんて、全然アーティストじゃないね。適度に可愛くて化粧映えして、適度に共感できる歌詞が書ける女を選んで、事務所がゴリ押ししてるだけでしょ。音楽業界のマーケティングが成功した典型例だと思うね」とかなんとかゴタクを唱えると、多くの女子は「あ~……なんか上から目線っぽい。何サマだよ」と感じる。

かといって「西野カナってほんまかわええよな! 歌詞とかヤバい!」(関西弁に他意はないが)と絶賛するのも、何か違うのである。「お前、西野カナがどんだけ外見盛ってると思ってんだよ。歌詞は可愛いけど見た目まで超カワイイって、すぐ騙されてんじゃねえよ。何かちょっと西野カナに負けたみたいで悔しい思いしてる私が、バカみたいじゃんかよ、モヤモヤすんなぁ」と、心中でモヤモヤ悪態をつく女もいるわけである。

「ぶちゃカワ」は誰も傷つけない

おさらいになるが、西野カナについてどう思うか聞かれたときの、正しい回答は「ぶちゃカワだよね」である。「ブス」の言葉のダメージを最小限に抑えた「ぶちゃいく」なる表現と、「かわいい」を組み合わせれば、ほら、絶妙に誰も傷つけない形容詞のできあがり。

世の中には、西野カナはなんとなく好きだけど、心酔するほどの大ファンでもない、という女性が大半なので(そもそも心酔するほどの大ファンは、どんなアーティストのファンの中でもごく一部だろう)、彼女をやたらと褒めちぎっても「そんなに良いか?」と思われるし、けなしすぎても「そんなに西野カナをコケにするほど、お前は偉いのか?」と思われてしまう。だからこその「ぶちゃカワ」だ。この一言に、西野カナを形容するすべてが詰まっている。

大ヒットアプリSNOWと西野カナ

昨年頃から大ヒットしているスマホのアプリ「SNOW」を思い出してほしい。アプリ経由で自撮りすると、自分の顔に犬や猫、くま、うさぎなどのカワイイかぶりものが施され、目はくりっと大きく、頬は丸く、幼く見える写メが撮れるアプリだ。

10代から人気に火がつき、タレントがSNSにアップしてさらに広まった。SNOWを使えば、目が少女漫画並みに大きくなるのに「やり過ぎ感」が出ないですむ。盛りに盛った顔に、動物のヒゲや鼻、耳がつくことで、「ぶちゃいくなファニーフェイス要素」が付与されるからである。

そんな「SNOW」で完成した顔をたくさん眺めていると、どことなく西野カナを思い出す。SNOWで作られる丸顔・愛されファニーフェイスには、西野カナの顔の特徴がすべて詰まっているのである。ふんわりした印象の輪郭、丸く、ピンクのチークがほどこされた頬、主張しない小さな口。真っ赤なリップはご法度だ。タレ目がちで、大きくて黒目が目立つ瞳は、まるで西野カナである。

ぶちゃカワ女を「すっげえカワイイ!」と絶賛するのは思慮が足りない

書いていてますます実感を強めたが、西野カナの外見が万人受けしながらも「絶賛される美人」ではないと言われるのは、いわゆる「SNOW顔」だからである。犬、猫、うさぎっぽい愛されフェイス。冷たい美人より、あったかい「ぶちゃカワ」の方が親しみやすさは抜群だ。共感もされやすいし、マネしてみたくもなる。

よって、女の前で、西野カナのようなぶちゃカワ女を「すっっっげえカワイイ!」と絶賛するのは思慮が足りないと思われるし、逆に女の子の共感を集める彼女を「ブスだろ」とこき下ろすのも、「いや普通にカワイイから。上から目線乙」となる。

やっぱり「カワイイ」が8割

ぶちゃカワの構成要素は「ぶちゃ2:カワ8」。いくらぶちゃいく要素が入っていても、やっぱり「カワイイ」が8割なのだ。ぶちゃはSNOWでいう動物のヒゲのようなもの、可愛すぎないように、ファニーフェイスの要素を加えるスパイスである。だから、SNOW顔の西野カナは、ときどき私たちをモヤモヤさせながらも「可愛いよね」と言われ続ける。

スマホ自撮りアプリSNOW

まあいわゆる「動物顔」ということになるのだろうが、もともと私たちは愛玩動物が好きである。パグやチワワなど、どこか一部が崩れていたり、目が大きすぎてギョロッとしていたりする小型犬を飼う女性は、少なからずそのワンちゃんに自己投影している。それが悪いと言いたいのではない。

北川景子に自己投影はできない

カワイイものを見る自分もカワイイのである。西野カナには、そういう小型犬にも似た性質があるのかもしれない。愛玩性のある外見は、女の子たちから共感されやすい。たやすく自己投影できるからだ。「私って北川景子を見ていると、自己愛が満たされるんだよね」という女は少ないが、チワワを飼って同じことを言う女は沢山いる。

今年27歳で「初ロマンス」の西野カナ

若い女性から一定の支持を集め続ける西野カナだが、今年は27歳で、男性マネージャーとの「初ロマンス」報道という芳しいニュースがあった。恋愛ソングのミューズである彼女の「恋」には賛否両論が寄せられたが、それだけ注目が集まっているのだろう。もしかすると初めて、彼女の外見や作品でなく、内面にスポットライトが当たったニュースかもしれない。個人的には西野カナが好きなので、パパラッチや変なアンチに追いかけられて傷つかないといいなぁ、と思う。

「もう傷つきたくないな」と強がる彼女でいてほしい

西野カナにはこれからもずっと、「思うより簡単じゃないな もう傷つきたくないな でもいつまでも怖がってたら 何も始まらないから(Believe)」と、ちょっぴり強がっていてほしいし、「どんなに離れても 近くに感じたい(会えなくても)」身近な存在でいてほしい。今年も紅白歌合戦は、彼女を見るためにチェックしようと思う。

北条かや

北条かや

1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo
【Facebookページ】北条かや
【ブログ】コスプレで女やってますけど

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