昨年頃から「プロ彼女」なる言葉を耳にするようになった。「芸能人・スポーツ選手とばかり付き合う一般女性」のことで、「容姿は端麗、本人は芸能活動を昔やっていたが、名前を検索しても見つからない程度。あるいはやっていない」「ブログやSNSも見つからない。自己主張をほとんどしていない」などの特徴をもつ。コラムニスト・作家の能町みね子氏が最初に使い始め、15年の流行語にもノミネートされている。実は私、ツイッターで、都内の大学で教鞭をとっているらしき男性から「北条かやってプロ彼女?」と揶揄されたことがある。「ハァ!?」と思った。私は上記の、能町みね子氏による「プロ彼女」の定義には全く当てはまらない。使ってきた当人は、おそらく「北条かやは女を売りにしている」くらいの意味で言ったのだろう。そのくらい、「プロ彼女」は誤用されて広まっている。本当の「プロ彼女」は、そんなふうに誤解して、揶揄のために言葉を使う人たちの隣には、絶対に姿をあらわすことはない。

「プロ彼女」と接触する人、しない人

彼女たちを見たことがある人と、ない人は、ハッキリ分かれる。「見たことがある人」は、男性なら、プロ彼女たちと日々、飲み会や合コン、パーティーを繰り返したりする経営層や、大手広告代理店関係者、芸能人、そういう女性たちと大学時代から友人だったりするような、リア充っぽい男性たち。女性なら、友人・知人に「プロ彼女」がいるような、やはりリア充らしきタイプだ。

プロ彼女と接触する男女と、それ以外の男女との間には高い壁があり、今日も冷たい雨が降る。「見たことがある人」は、そのコミュニティにどっぷり浸かっているが、「見たことがない人」は一生、彼女たちと接触することはないだろう。なぜならプロ彼女たちは「口が固い」からだ。昼間はOLなど普通そうな仕事をしている場合もあるが、芸能人たちとの飲み会やパーティーなどの様子を、「その他大勢」の前では見せない。また、彼女たちは、自分たちのコミュニティに属さない人間にはまったく興味がない。容姿端麗でモデル経験もあるような美女たちなので、自分以下の人間は目に入らないというケースもある。

だから、われわれ「その他大勢」は、「プロ彼女なんているの?」といぶかしがったり、「プロ彼女ってさ、要は女を売りにしているだけのビッチでしょ」と想像をたくましくしたりしてしまうのだ。見えないものには妄想力がはたらく。プロ彼女は「ネッシー」のようなものである。見たことがある!と信じている人は、その存在を固く信じて疑わないし、ない人は疑惑と揶揄の目を向ける。

プロ彼女の顔面偏差値は70以上ないとダメ

私はもちろん、プロ彼女ではない。まず、顔面偏差値が足りない。先日、多くのAV女優や風俗嬢などを取材している、ルポライターの中村淳彦さんと対談した。彼いわく「北条さんの顔面偏差値は、55~65くらいだよね」。うーん、恐れいった。私が「プロ彼女」になれない理由がお分かりになるだろうか。まず、見た目からしてNGなのだ。プロ彼女は、相当容姿レベルが高い。顔面偏差値でいうと70くらいはないとダメだろう。一般人でありながら芸能人との飲み会にも呼ばれたりするくらいなので、顔面偏差値55~65の私ではとうてい、足りないのである。しかもオシャレに興味がなく、ネイルもやっておらず貧乏性で、SNSで発信ばかりしている私は、プロ彼女には絶対になれないタイプの人間である。女子同士のコミュニティにいると、容姿がいかに人々を断絶するものか分かる。私は思春期の頃から、自分の容姿が垢抜けないことを知っていた。「上」のコミュニティには絶対に入れないのである。

やはり元モデルが多い、トロフィーとしてのプロ彼女

最近、プロ彼女にはなれなくても、少しテレビに出るようになった私は、「プロ彼女の知り合いがいる」という女性たちと知り合うようになった。興味津々で聞いてみると、やはりプロ彼女には、「読者モデル経験者」「元グラドル」「元モデル」が多いようだ。ほとんどは「~~モデル」である。容姿端麗で、背が高くないとダメ。芸能人や経営者の一部は、自らのスゴさを示す「トロフィー」を求めている。それが「プロ彼女」=美しい女だ。顔の良さに加え、スラっとしたモデル体型であればなおよい。一緒にいて華があり、「すげぇ美人がいる」と思われるくらいじゃないといけない。男にとって、素晴らしい美女は「トロフィー」なのだから。

トロフィー候補のプロ彼女たちは、日夜、経営者や芸能人と、西麻布や六本木あたりの会員制バーでパーティーをしている。すでにそういうコミュニティができており、一見さんはお断り。プロ彼女は同じようなモデル並みの容姿の友人を紹介し、男性サイドもまた、同じようなレベルのステイタスをもつ男性を紹介しあうから、どんどん人脈が広がっていくそうだ。プロ彼女たちの人脈は無限に広がっていく一方で、下々の私たちには見えない。彼女たちと私たちが、関わることは一生ないだろう。興味関心を誘い、揶揄の対象になるのも仕方ない。容姿によって輪切りにされた偏差値のある一線で、女は「プロ」になれるかそうでないかが決まる。そうなれなかった女の一人として、私もまた彼女たちをねたむ。が、最近は彼女たちのコミュニティを取材し、暗い部分を見てみたいと思うようになった。掘れば色々出てきそうではないか。ワクワクする。が、どうやって彼女たちの間に分け入るか、私には検討もつかない。深い河があって、私はそこを渡れないのである。

外見サーカスの舞台の上

北条かや

1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo

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北条かやライター

1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。

同志社大学社会学部卒
京都大学大学院文学研究科修士課程修了
民間企業勤務を経てライター、著述家として活動

出演
『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)

著書
『キャバ嬢の社会学』(2014年星海社新書)
『整形した女は幸せになっているのか』(2015年星海社新書)
『本当は結婚したくないのだ症候群』(2016年青春出版社)
『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(2019年青春出版社青春文庫)
『こじらせ女子の日常』(2016年宝島社)
『インターネットで死ぬということ』(2017年イースト・プレス )