大きなバストを求める女性の要望に対応するために、バストサイズを確実に大きくする方法がプロテーゼを用いた豊胸術になります。ここではプロテーゼを用いた豊胸手術を中心に解剖から、リスク、ダウンタイムまで分かりやすく解説します。

豊胸術・プロテーゼ挿入位置はこうして決める

ご自分のバストがどのようになっているか、想像したことはありますか? 皆さまのバストは、下のイラストの様に筋肉組織、乳腺組織、皮膚および皮下脂肪から構成されています。

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出典 https://www.primo-clinic.jp/

体質や体格、希望する豊胸手術によって、どこに何を入れるかが異なり、当然ながらダウンタイムなどにも影響してきます。プロテーゼの場合ですと、代表的な挿入位置は乳腺の下層、大胸筋表面にある筋膜の下層、大胸筋の下層の3種類です。

この3種類の中で感染、拘縮といったリスクが相対的に高いのは、乳腺の下層にプロテーゼを挿入する乳腺下法と言われています。皮下脂肪が薄く痩せていらっしゃる方には大胸筋の下に入れる方法が良い場合があります。

この場合、腕の動きに合わせ大胸筋が収縮する際に、バストも少し動いてしまうという不自然さが伴う場合があります。大胸筋筋膜下法は、乳腺下に入れる場合よりもリスクが低く、かつ生理的な場所であるため、腕の動きなどでも形が影響されないなど、相対的に有利な点が多いようです。

患者様ごとに「ベスト」な挿入場所が異なるため、バストの解剖をきちんと踏まえたうえで、患者様のご希望や体格に合わせて挿入位置を決めるのが一般的です。

豊胸手術で注意すべき神経

豊胸手術に限らず、外科手術では神経を傷つけないように注意しなければなりません。豊胸手術を行う際に、医師が特に注意すべき神経は、大きく2カ所あり、画像の中ではグリーンのラインで表現しました。

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出典 https://www.primo-clinic.jp/

1つ目が、肋間神経の前皮枝(バスト左側のグリーン)と外側皮枝(バスト右側のグリーン)です。この2つの神経に傷をつけてしまうと、バストや乳首の知覚が麻痺してしまうため、注意が必要となります。

大きなプロテーゼを希望された場合、これらの神経を切らないとプロテーゼを入れるポケットができない場合があり、その場合は知覚麻痺や痺れを伴うことになりますので、お勧めを致しておりません。

まず手術の際に、これらの神経がある場所をマーキングし、ポケットを作成する際に細心の注意を払って傷めないように剥離します。
その最大限のポケットに入る最大の大きさのプロテーゼが、その方の体型での最大のバストになります。手術中に大きさは見て確認しながらプロテーゼのサイズを決められる方法で行うと、サイズで後悔することはないと思います。

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出典 https://www.primo-clinic.jp/

2つ目は、肋間上腕神経と内側上腕皮神経です。これらの神経が傷つくと、上腕の知覚が麻痺したり、痛みが残ったりすることがあります。豊胸後、元通りの生活を送るためにも傷つけないよう注意が必要です。
脇の下から通常プロテーゼを入れるので、美容外科医はこれらの神経を傷めないよう手術の際に注意を払う必要があります。

拘縮はなぜ起きるのか

豊胸で利用するプロテーゼは、私たちの体にとって異物です。私たちの体には素晴らしい防衛機能が備わっていますから、異物が入ってくると体を守るために異物をコラーゲン繊維でできた被膜(カプセル)で包みます。ここまでは正常の反応で何も問題ありません。

しかし、感染、血腫、漿液腫など様々な原因で、被膜(カプセル)が収縮し小さくなってしまったり、被膜(カプセル)が分厚く・硬くなってしまったりすることを、被膜(カプセル)拘縮を呼んでいます。
予防としては、拘縮が起きにくいタイプのプロテーゼを選んだり、拘縮予防のための内服薬を飲んだり、拘縮の起きにくい場所にプロテーゼを入れたりするのが一般的です。

術後にマッサージをする方法もありますが、私は行っておりません。むしろ禁止をしております。テクスチャードタイプの膜表面、アナトミカルタイプのプロテーゼの良い機能を失ってしまう可能性があると思っています。ほか高周波温熱療法などで創傷治癒を促すなどは良い方法と思います。

やはりもっとも大切な予防策は、手術中の丁寧な操作、清潔に対する対処などではないでしょうか。綺麗な手術を行うと成績、結果も良くなると思っています。

手術タイプ別のダウンタイム

○プロテーゼ

デスクワークのようなあまり体を使わない仕事なら、2~3日ほどで復帰できます。腕や体をよく使う仕事の場合は、1週間ほどお休みがあった方が安心です。また個人差はありますが、腫れや内出血がひくまでに2~3週間ほど必要とします。

○ヒアルロン酸注入

もっともダウンタイムが少ないのは、ヒアルロン酸を注入する方法です。デスクワークのようなあまり体を使わない仕事なら、ほぼ翌日から仕事復帰できます。
傷みや腫れは、長くても1週間ほどでひいてきます。後日のダウンタイムとして、しこりになる可能性がありますので、除去の処置が必要となる場合があります。術式の選択の際は十分に注意が必要です。

○脂肪注入

自分自身の脂肪を使うので、とても自然な仕上がりになる手術法ですが、ダウンタイムは長めです。長い方ですと、痛みや腫れが引くまでに1カ月弱かかることもあります。

各豊胸手術の代表的なリスク

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各豊胸手術で、おこる可能性があるリスクについて列挙しました。まずは、どんな手術でどんなリスクがあるのかをご確認ください。

○プロテーゼ

  • ・被膜拘縮
  • ・感染
  • ・しびれ、知覚異常
  • ・プロテーゼの位置異常
  • ・外部からの衝撃でプロテーゼが破損
  • ・バストの左右差
  • ・傷跡

など。

○ヒアルロン酸注入

  • ・注入したヒアルロン酸がしこりになる
  • ・感染
  • ・バストの左右差

など。

○脂肪注入

  • ・注入した脂肪がしこりになったり石灰化したりする
  • ・脂肪壊死
  • ・感染
  • ・バストの左右差
  • ・傷跡

これらのリスクについては、事前の対処で予防できることもあります。例えば、脂肪注入の場合、脂肪から不純物(血液など)を取り除いてからバストに注入することで、石灰化を予防しやすくなります。きちんとした説明を受け、気になる点は確認してから手術に望むようにしましょう。

薬をきちんと飲んで、異常があれば早めに医師へ

豊胸手術を受けた後は、処方された薬をきちんと飲み、もし何か異常を感じる場合は早めに医師に相談しましょう。

なお、本コラムにてご紹介した内容は、あくまでも一般的な内容です。実際の手術では個人差が出ますので、詳しいことはクリニックで医師に相談してください。

*本記事内でご紹介した治療機器、施術内容は、個人の体質や状況によって効果などに差が出る場合があります。記事により効果を保証するものではありません。価格は、特に記載がない場合、すべて税込みです。また価格は変更になる場合があります。記事内の施術については、基本的に公的医療保険が適用されません。実際に施術を検討される時は、担当医によく相談の上、その指示に従ってください。

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監修:

大場教弘 医師

プリモ麻布十番クリニック

大阪市立大学医学部卒業。大学病院では形成外科医として勤務。都内美容外科を経て、2009年プリモ麻布十番クリニックを開院。現在は理事長兼院長。形成外科専門医。
目元の外科治療全般、鼻の鼻中隔延長術などの症例が多く、他院での修正手術を希望する方も多いそう。自身のクリニック以外にも神戸大学医学部附属病院美容外科非常勤講師として活躍。

大阪市立大学医学部卒
大阪市立大学医学部付属病院形成外科・美容外科
大阪市立大学大学院医学研究科
大阪市立大学医学部付属病院形成外科・美容外科
リッツ美容外科 東京院
プリモ麻布十番クリニック理事長