美容皮膚科でハイドロキノンと並んでよく処方されている成分、トレチノイン。この2つの成分はシミや肝斑、ニキビ跡などの治療で処方されることが多い組み合わせです。ハイドロキノンは「肌の漂白剤」とも呼ばれるほど美白効果が高い成分として有名ですが、トレチノインがどのようなはたらきをするか詳しくご存知でしょうか。ここではトレチノインがどんな成分か、どのような効果があるか、また副作用などについても詳しくお話していきます。

【監修医師からのワンポイント】

トレチノインはその効果の高さから、いま注目を浴びている外用薬です。上手に使えばシミだけでなくニキビや毛穴、皮膚のたるみなどさまざまな肌悩みを解決してくれます。効果が高いだけに、使用方法を誤ると皮膚トラブルの原因にもなりかねません。まずは皮膚科での診療をオススメ致します。

目次

1.今更聞けない! 美容皮膚科で処方されるトレチノインってどんな成分?

1-1.トレチノインとは

ビタミンAが肌にいいということは皆さんもご存知ですよね。トレチノインとはレチノイン酸とも呼ばれるビタミンA誘導体です。ビタミンAそのものよりも安定していて、その活性力は約50〜100倍にもなります。トレチノインは血液中にもわずかに存在している成分なので、アレルギーの原因になることはありません。

ビタミンAは肌の若返りやニキビの治療などに効果があり、医療用としてはトレチノインやアダパレン(ニキビ治療薬「ディフェリンゲル」)、化粧品に配合される成分としてはレチノールが知られています。ビタミンAが美肌に効果があるということは確かであり、非常に信頼度の高い成分です。

米国ではしわ・にきびの治療医薬品としてトレチノインはFDAに認可されており、特に日本やアメリカのように新しい成分が次々に登場することがないヨーロッパではアンチエイジング化粧品の成分として新商品に繰り返し使用されています。

日本では2008年にアダパレンを使用した「ディフェリンゲル」がニキビ治療薬として認可されましたが、トレチノインは刺激が強く、催奇性(妊娠中の女性が使用したときに胎児に奇形が起こる可能性)があることから、厚生労働省に認可されていません。したがって、トレチノインを使用するときには院内製剤といってクリニック内で処方する薬として出してもらう必要があります。

1-2.トレチノインの効果

トレチノインの効果

トレチノインはアンチエイジングや美肌のためだけではなく、ニキビの治療に用いられることもあります。具体的な効果を見ていきましょう。

■シミやくすみ、色素沈着、ニキビ跡の改善

トレチノインにはシミに直接アプローチする作用はありません。トレチノインを使用することによって、表皮の角化細胞が活発に分裂し、ターンオーバーが促進されることによって、メラニン色素を含んだ古い細胞が押し上げられて排出しやすくなるのです。新しい肌が再生されやすくなり、結果シミやくすみ、色素沈着、ニキビ跡などが改善されていきます。

■たるみや小じわ、毛穴の開きの改善・肌の保水力アップ

ターンオーバーが促進されると肌のハリや水分を保つヒアルロン酸やコラーゲンが作られやすくなります。使い続けることで肌の表皮や真皮も厚くなり、小じわやたるみなども改善されていきます。開いた毛穴は目立たなくなるでしょう。

■皮脂を抑えてニキビを改善

トレチノインには皮脂を抑える作用もあります。皮脂が過剰な肌やニキビ肌の改善に使用されることがあります。

1-3.トレチノインとレチノールの違い

トレチノインとレチノールの違い<

どちらも外用するためのビタミンA誘導体であることには変わりませんが、効果の高さや浸透度がまったく別です。トレチノインは化粧品に使用されるレチノールの約100倍の生理作用があります。

■トレチノインはレチノールより劣化しやすい

トレチノインは肌への浸透度と効果が高いものの、光や熱に対して非常に不安定で劣化が早い成分です。開封後は1~2カ月程度で使い切る必要があり、冷暗所で保存することが望ましいとされています。このことが院内製剤で処方される理由でもあります。

これに対して化粧品に使用されるレチノールは安定度が高くなっています。それでも、レチノールを使用した化粧品はできるだけ早く使い切るべきと言えるでしょう。

1-4.トレチノインとハイドロキノンを併用する理由

美容皮膚科の治療内容をチェックすると、トレチノインはハイドロキノンと合わせて加齢によって目立ってきたシミやそばかす、肝斑の治療に使用されることが多いということが分かると思います。この理由について考えてみましょう。

■ハイドロキノンの美白作用と併用することでさらに高い効果が得られる

ハイドロキノンはメラニンを作り出す酵素であるチロシナーゼの働きを弱めてメラニンを作られにくくする成分です。新しいシミができるのを防ぎながら、すでにあるシミを薄くする効果も期待できます。

トレチノインには肌のターンオーバーを早め、メラニンを含んだ古い角質を排出しやすくする働きがあることはすでにお話ししました。ハイドロキノンでメラニンを減らしつつ、新しくできないようにしながらトレチノインでメラニンの排出をサポートすれば、より高いシミ改善効果が期待できるでしょう。ただしトレチノインもハイドロキノンも効果が高い成分だけに必ず医師の指導の元、治療をする必要があります。使い方を間違えるとかえってシミが目立ってしまうこともあるようです。

1-5.トレチノインの副作用と使用する上での注意点

トレチノインを使用している間はいくつか注意しなければならない点があります。細かい点は処方してくれる医師からアドバイスを受けるようにしてください。

  • ・紫外線ケアと保湿を徹底すること
  • ・肌への摩擦や刺激は避けること(顔そりなど)
  • ・皮がむけてきても自分ではがさず、自然にはがれるまで待つこと
  • ・開封後1~2カ月以上経過したトレチノイン製剤は捨てること
  • ・妊娠、授乳中は使用を控え、避妊をすること

■トレチノインの副作用について

・レチノイド反応
トレチノインによって肌に急激にビタミンAが補給されると、赤みや乾燥、かゆみや皮むけが起こることがあります。これを「レチノイド反応」と呼んでいます。

アレルギー反応や毒性への反応とは違うため、個人差はありますが使用後2週間程度で自然におさまります。とはいえ、あまり炎症が長引くとかえって色素沈着を招いてしまいますし、他の原因があることも考えられます。トレチノインを処方してもらった医師に相談するようにしましょう。

レチノイド反応は、言ってみればダウンタイムが生じるということ。肌の赤みを抑えて長期間使用したいという場合は濃度の薄いものを使用するなど、目的や生活スタイルなどに合わせて、濃度を変えて処方しているクリニックもあります。

・体への使用もOK! 色素沈着に注意を
トレチノインの体への使用は問題はありません。しかし背中のニキビ跡やシミのような体への広範囲の使用は炎症後色素沈着に注意が必要です。心配な方は狭い範囲から始めてみると安心です。

2.トレチノインの入手方法

トレチノインの入手方法

化粧品に使用されるレチノールよりもはるかに高い効果が期待できるトレチノイン。残念ながら日本では認可されていない成分なので、入手する方法はクリニックで処方してもらうか、個人輸入するしか方法はありません。ここからはトレチノインの入手方法やクリニックでどのように使用されているかなどについてお話していきます。

2-1.トレチノインを皮膚科で処方してもらう

美容皮膚科においてトレチノインは単独ではニキビや油性肌の治療に、ハイドロキノンとの併用ではシミやしわ、肝斑の治療などのために処方されています。最近は個人輸入でトレチノインを入手して使用している方もいるようですが、おすすめしません。

■トレチノインを皮膚科で処方してもらうべき理由

理由は3つあります。

  • ・新鮮なものを使用する必要があるため
     トレチノインは密閉容器に入れて、冷蔵しても1〜2カ月たつと成分の10%が酸化してしまいます。少量をこまめに処方してもらう必要があるのです。
  • ・シミや肝斑などの状況に応じた処方が必要であるため
     トレチノインとハイドロキノンを併用する場合、かえってシミを悪化させてしまわないよう、ていねいなカウンセリングを行い「使用量」「濃度」「使用期間」「使用回数」などを指導する必要があります。また、真皮の深いところにあるシミには残念ながら、効果が期待できないので、治療が適応かどうかも医師が判断しなければなりません。
  • ・治療の流れについて正しく理解してもらうため
     トレチノインとハイドロキノンを併用する場合、レチノイド反応が出てダウンタイムのような状態がしばらく続きます。シワやたるみなどの改善を希望するなら、3カ月程度治療を継続しなければなりません。

    また、妊娠を考えている女性は使用できないということやトレチノインの使用中は紫外線ケアが必要な点なども忘れてはならないポイント。このような治療の流れ・注意すべき点を正しく理解するためにも、医師の診察を受けてから処方してもらうのがベストです。

2-2.美容皮膚科でのトレチノイン製剤の価格

トレチノインの濃度によっても異なりますが、一般的な0.1%製剤で5g 4,000〜7,000円、マイルドな作用の0.05%が5gで3,000円程度が目安。この他に診察料が必要になります。また、段階的な治療が必要であるため、濃度の濃いトレチノインは初診では出してもらえない場合もあります。

2-3.併用が勧められる治療

トレチノインは単独で使用するよりも、他の製剤や内服薬、施術と組み合わせて行うことで、より高い効果が期待できます。実際に併用されているものを紹介しましょう。

■製剤

ハイドロキノン

■併用が勧められる施術

  • ケミカルピーリング。シミの治療に
  • Qスイッチレーザー。ニキビ跡やシミ、そばかすの治療に
  • 炭酸ガスレーザー。ニキビ跡の治療などに
  • ダーマローラー、フォトRF。シワやたるみの改善、ハリのアップに

■内服薬

  • ハイチオール。シミの治療に
  • ユベラ。ビタミンEの内服薬。シミの治療に
  • トランサミン・トラネキサム酸。炎症を抑えたり、肝斑を改善する効果も
  • シナール。ビタミンCの内服薬 シミの改善に

2-4.トレチノインは通販でも買える?

トレチノインは個人輸入のサイトでも購入することができます。商品名はA-RetGel(エーレットジェル)、Retino-A(レチノA)など。価格の相場は以下の通りとなっています。

  • 0.025%が20gで1,400円程度
  • 0.05%が20gで1,900円程度
  • 0.1%%が20gで3,300円程度

いずれもクリニックで処方されるよりも安い金額で購入できますが、万が一トラブルになっても自己責任で対応しなければなりません。また、個人輸入した医薬品は日本の厚生労働省が設けている「医薬品副作用被害救済制度」の対象にはなりませんので、注意しましょう。

2-5.トレチノインとハイドロキノンの失敗例

トレチノインとハイドロキノンの失敗例

■体のニキビ跡の治療のため広範囲に塗って色素沈着が起こる例

トレチノインは誤った使い方をするとかえってシミが濃くなったり、炎症を起こして肌が真っ赤になってしま
ったりすることがあります。

また、ハイドロキノンを併用した場合では白斑になる恐れが。実際に個人輸入で入手したトレチノインやハイ
ドロキノンで起きた肌トラブルで皮膚科を受診する人も増えているのです。

特に白斑は「白ぬけ」とも呼ばれ、肌の色が抜けてしまったような状態になり、一度できてしまうと完治が大変難しい皮膚病のひとつです。数年前に美白化粧品による白斑のトラブルが問題になったことはまだ記憶に新しいと思いますが、シミを消したいばかりに白斑ができてしまっては本末転倒です。
トレチノインやハイドロキノンは医師の診察、指導のもとで使用するようにしましょう。

3.まとめ

美白化粧品では消えないシミや肝斑、しわやたるみなどを改善する治療に用いられるトレチノイン。効果が高いだけに医師の指導のもと、正しい濃度、用法で使用する必要があります。使用に際する注意点やダウンタイムともいえるレチノイド反応などについても医師からアドバイスを受けていれば、症状が出たときも安心して治療を続けることができるのではないでしょうか。自己判断でトレチノインを使用して肌トラブルになる人も増えていると言われています。トレチノインを使ってみたいという方は、お近くの美容皮膚科などで相談してみてはいかがでしょうか。

*本記事内でご紹介した治療機器、施術内容は、個人の体質や状況によって効果などに差が出る場合があります。記事により効果を保証するものではありません。価格は、特に記載がない場合、すべて税込です。また価格は変更になる場合があります。記事内の施術については、基本的に公的医療保険が適用されません。実際に施術を検討される時は、担当医によく相談の上、その指示に従ってください。

Emiri

Emiri

美容系全般得意なライター。自身でも美容医療を実践。

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監修:

川北梨乃 医師

みやびスキンクリニック

日本皮膚科学会認定専門医。2022年、みやびスキンクリニック開院。みやびスキンクリニックでは、皮膚医学と漢方内科学に基づいて内側と外側からのトータルケアを行っている。中医アロマセラピストの薬剤師も在籍。
得意施術は美肌治療、エイジングケアなど。

2012年 東京女子医科大学医学部卒業
2012年 順天堂大学医学部附属順天堂医院初期臨床研修医
2014年 順天堂大学形成外科学教室入局
2015年 独立行政法人国立病院機構  東京医療センター皮膚科後期レジデント
2016年 杏林大学医学部付属病院皮膚科(国内留学)
2017年 東京女子医科大学東医療センター皮膚科(国内留学)
2019年 都内美容皮膚科非常勤勤務
2022年 みやびスキンクリニック 院長