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孫正義の「名言」
※この記事は2016年に発表されたものです。
「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである。」――言わずと知れた、孫正義氏の名言ツイートだ(2013年1月8日)。この2年間で、実に4万7千RT以上されているこのつぶやきを見て、「さすが孫さんは違う」と感じる人は多いだろう。ビジネスであれだけ成功しているからこそ、「頭髪」をからかわれても堂々としていられるのだ、と。ある種の女性にとって、顔の良し悪しが大きな問題なのと同じように、男性にとってもまた、頭髪は重要な問題である。「見た目依存社会」に生きる私たちだからこそ、少しでもアピールの良い外見を保ちたい。そこにこだわる限り、必然的に女性は顔、男性は髪の問題から自由になれない……とは言い過ぎか。しかし私は先日、”育毛・植毛”のためにクリニックを訪れる男性を見て、複雑な思いにかられたのである。
髪の毛が後退しているのではない。
私が前進しているのである。
RT @kingfisher0423: 髪の毛の後退度がハゲしい。
— 孫正義 (@masason) 2013, 1月 8
「薄毛治療」が売りの美容外科
都内某所で「薄毛治療」を行っている美容外科に行ってみた。美容外科を訪れる男性の目的は、ニキビ治療やヒゲ脱毛、二重まぶた形成、包茎手術などさまざまだが、「植毛・育毛」のために通っている人も多い。美容整形業界では近年、「薄毛治療」のメニューが充実している。治療のターゲットは「AGA=男性型脱毛症」なる症状だ。いわゆる”若ハゲ”は、多くがこの「AGA」。初期であれば投薬と育毛メソセラピー(頭皮の毛根に直接、薬剤を注入する方法)などで”治療”できる。症状が進んで毛根の細胞が死滅しても、自分の髪の毛を「移植」する手術がある。大掛かりな手術だが、定着した毛は半永久的に残るそうだ。と、前置きはこれくらいにして、薄毛治療メニューがある美容外科の中へ入ってみよう。
そのクリニックの待合室は、一般的な美容外科とは少し違っていた。やや男性客が多く、受付横の待合スペースには、男性誌と女性誌が同じくらいの比率で置いてある。顧客層に合わせているのだろう。よくある美容外科の顧客は、圧倒的に女性が多く、待合室では黙ってスマホや女性誌を眺めているケースが目立つ。中には通い慣れているのか、すっかりリラックスしてくつろいでいる女性もいる。しかし、その薄毛治療クリニックの男性顧客たちは、ちょっと様子が違った。完全に2タイプに分かれるのだ。(1)堂々として多弁になる人と、(2)気恥ずかしさがあるのか、オドオドしている(ように見える)人である。ほとんどが後者だが、興味深いのは前者の「堂々として、多弁になるタイプ」だ。
なぜか「明るい」男性顧客
薄毛治療を売りにするクリニックとはいえ、受付は若い女性が多く、診察室への誘導や治療の補助、事後説明などを行うのは女性看護師がメイン。そんな女性たちとのコミュニケーションの際、自意識過剰になってしまう男性もいるのだろうか。受付でやたらと「◯◯はどこですか?」「これは~~ですか?」とテンション高く質問する人もいれば、治療を終えてクリニックを出る際、「次回もよろしくお願いしますね~!」など、やたらに明るく振る舞う人もいる。美容外科で、こういう「明るさ」を見せる女性は、ほとんどいない。女性はどんな治療でも「やや後ろめたそうに、黙って来院し、黙って帰る」パターンが99%だが、育毛で訪れる男性の一部は、妙に堂々としていて明るい。なぜだろうか。

ハゲへのからかいは「人格のテスト」
社会学の観点から「”ハゲ”に悩む男性」を分析した『ハゲを生きる――外見と男らしさの社会学』(須長史生、1999)によると、薄毛に悩む男性たちは、日常的に「おい、ハゲ」などと頭髪をネタにされ、<人格のテスト>を受けている。<人格のテスト>とは、相手から「外見」をネタにされた際、どのくらい「タフに堂々としていられるか」を試されること。からかう相手は、背後に「お前は外見なんかでうじうじ悩む男なのか?」「ちょっとからかうだけで傷つくほど情けないのか?」というメッセージを隠している。その言葉に対し、本気で怒ったり悲しんだりすれば「負け」=男らしくないとされる。逆に、「ハゲがどうした~?」とか、「ハゲでーす」など、堂々たる態度や、自虐的な「ピエロっぽさ」を演じてみせれば、からかいにも負けない”男らしい奴だ”という印象を与えることができる。薄毛の男性たちは、これまでの人生で頭髪をからかわれるたび、その実「男らしさ」を試されてきたのだ。
そう考えれば、薄毛治療のクリニックで堂々と、明るくふるまう男性たちの心の裏がすこし理解できる。彼らは「タフな男」がよしとされる世の中で、「自分は薄毛(≒外見)なんて気にしない、強い精神の持ち主だ」という態度を身につけてこなければならなかったのだ。しかし、薄毛治療に通ってしまう後ろめたさ。自分は男らしいのか、男らしくないのか。そんな心の揺れがあるからこそ、あの妙な明るさとテンションが生まれるのではないか。薄毛治療を前に、千々に乱れる男性の心と、この社会の「ハゲ問題と男らしさの深い関係」を思いつつ、クリニックを後にした。
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北条かや
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo
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執筆:
北条かやライター
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
同志社大学社会学部卒
京都大学大学院文学研究科修士課程修了
民間企業勤務を経てライター、著述家として活動
出演
『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)
著書
『キャバ嬢の社会学』(2014年星海社新書)
『整形した女は幸せになっているのか』(2015年星海社新書)
『本当は結婚したくないのだ症候群』(2016年青春出版社)
『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(2019年青春出版社青春文庫)
『こじらせ女子の日常』(2016年宝島社)
『インターネットで死ぬということ』(2017年イースト・プレス )
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