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冨永愛への「畏敬の念」
※この記事は2016年に発表されたものです。
数年前、モデルの冨永愛がテレビのバラエティ番組に出始めたとき、妙な違和感があった。彼女は離島など、サバイバルっぽい匂いのする所へ出かけては、笑顔でドタバタしていた。「あれ? こんなキャラだっけ?」と、不思議な気持ちになる。彼女はランウェイを闊歩するスーパーモデルであり、バラエティのロケで笑顔をふりまくタイプではなかったからだ。
小学生の頃、初めて彼女を見たときは違った。表情を含め、「なんだか怖い顔だなぁ」と思ったものだ(失礼)が、それはむしろ畏敬の念としてである。幼い自分にとって、弱冠17歳で世界的なスーパーモデルの仲間入りを果たした冨永愛の顔は「怖い」と感じられた。彼女は笑っていなかった。男に媚びる、しなしなとした笑みを作っていなかった。モード界に生きる彼女は、大衆に媚びを売る必要がなかったからだ。
モデルの「ランク」と笑顔は反比例する
「モデルは『ランク』が上がるにつれて、笑わなくなっていく」と指摘したのは、エッセイストの酒井順子だ(『面々草』1997、角川書店)。ずいぶん前のエッセイだが、面白いので少し引用する。
「……笑顔の写真が多いモデルというのは、モデルとしてさほどランクが高くないように思います。モデルというのは不思議なもので、売れていればいるほど、笑顔の写真が少なくなってくるのです(「モデル顔――一般大衆を見下す」より引用)」
なぜ、モデルはランクが上がるほど、笑わなくなっていくのか。酒井は考察する。笑顔が似合う服はたいてい「非モード系」で、一般人が着られるような服。ごく普通の女子大生やOLたちに、「私も着てみたい」と思わせなければならない。なるほど……こんな表現は非情だが、『CanCam』や『Ray』など、モテ系のファッション誌には、普通の女の子が自分を投影してナルシシズムにひたれるレベルの容姿をもったモデルと、その満面の笑みがお似合いなのだろう(まあ、実際のモデルは一般人とくらべて、軍を抜いて可愛いわけだが)。対して、普通の人が普通に着られないような服――特殊なデザインや値段の服(モード系)――には、笑顔が似合わない。そもそも一般女性向けの服ではないので、モデルたちは「私に自己投影してね」と、媚を売る必要がない。ブランドイメージからしても、大衆に「ハイレベルだなぁ……」と憧れてもらわなければならないので、やたらと媚びを売るのはむしろ損だ。そんなハイブランドが集まるモード系雑誌、『Numero TOKYO』や『VOGUE』の表紙に、ニコニコしたモデルが映っているのを私は見たことがない。この表紙を見てほしい。モデルは笑みを作るどころか、無表情で憂鬱げで、こちらを睨みつけているようですらある。スーパーモデル、冨永愛に感じた畏敬の念にも通じる「怖さ」だ。なぜか魅了される美しさである。

「モテたいなら笑いなさい」
酒井がいうように、「本物の美人は、笑っている時よりも怒っている時の方が、よりいっそうその美しさが輝く」のかもしれない。女子の笑顔は普通、沢山の人を惹きつけるものだ。「モテたいなら、仏頂面ではなく常に笑顔でいましょうね」というアドバイスは、女性向けモテ本の常套句。確かに、ぶすっとしている女より、いつもニコニコしている女の方が、親しみやすい。読者モデルなどが、キャピキャピしたキメの1枚で誌面に収まっているのを見ると「彼女にとって、これが万人受けする『キメ顔』なのだろうなぁ」と思う。自分のことは棚に上げて言うが、読者モデルの女子が、この『Numero TOKYO』の表紙モデルのような冷たい表情をしていたら、笑顔の時と比べて「可愛い!」とは思えないだろう。フツーの女子は、媚を売った笑顔を作らないと、「いいね!」と思ってもらえない。容姿が一般レベルを超えない女たちの、悲しい限界である。

出典 http://nosenoseno.seesaa.net/
CanCamモデルはステップアップして笑みを消す
対して冨永愛のような、四肢に恵まれたスーパーモデルは、下手に笑わない方が美しい。むしろカメラの奥を睨みつけるような、眼光の鋭さが求められる。ため息が出るほどの不遜さ、媚を売らない強さ。この強さを手に入れたモデルは、モデルとして一段上にあがった感覚を得られるだろう。そういえば『CanCam』のモデルが、ステップアップしてキャリアウーマン向けのファッション誌に移って特集された時、急に笑顔のショットが減ったのを思い出す。ページはシンプルで、あえてモード系のデザイン。彼女は、モデルとして、女として「大人」の階段を登ろうとしたのだろう。「ニコニコ、ブリッコしなくても『女に憧れられる強い女』」になるべく、笑みを減らしたのではないか。いいなぁ、笑わない顔もカッコいいではないか。さすが本物の美人は違う……と思ってページをめくると、彼女は最後に上半身だけヌードになり、満面の笑みを作っていた。ページはモノクロ。「美しい、でも微妙……」と残念な気持ちになったのは、彼女が最後の最後で笑顔をつくり、読者に中途半端な媚を売ってしまったからかもしれない。ニコニコ笑う冨永愛をバラエティで見たときのような、残念さがあった。本当に美しい人には、やっぱり笑ってほしくない。
■「どの施術が正解なのか分からない……」という方に
似た悩みでも必要な施術は人によって変わります。医師が“施術ごとの役割と違い”を詳しく監修した記事がありますので、納得して選びたい方はぜひ参考にしてください。
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この記事は、
Bellefeel Clinic新宿の
中務秀一医師が監修しています。
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北条かや
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo
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執筆:
北条かやライター
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
同志社大学社会学部卒
京都大学大学院文学研究科修士課程修了
民間企業勤務を経てライター、著述家として活動
出演
『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)
著書
『キャバ嬢の社会学』(2014年星海社新書)
『整形した女は幸せになっているのか』(2015年星海社新書)
『本当は結婚したくないのだ症候群』(2016年青春出版社)
『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(2019年青春出版社青春文庫)
『こじらせ女子の日常』(2016年宝島社)
『インターネットで死ぬということ』(2017年イースト・プレス )
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