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※この記事は2016年に発表されたものです。
女子がいう「胸がない」のレベルには、いろいろある。「Bカップ」くらいはあるのに、「あたしなんて全然、胸ないから」とのたまう女子もいれば、(聞かれてもないのに答えるが)私のように「Aカップ以下、もしくはそれ未満とバレるのが怖いから、測ったことすらないレベル」の女もいる。「手のひらサイズ」といえば聞こえはいいが、要はほんとうに「胸とみなせるほどのふくらみが、ほぼ見当たらない」。もちろんAカップやBカップ、さらにはC以上ある女子だって、「胸が小さい」とコンプレックスを抱え、悩んでいるケースはあるだろう。が、私の闇は深い。今も密かに、美容外科の豊胸ページを見たり、胸のハリがアップするというサプリやジェルを(たまにですけど)使ったりしている。効き目がないのは分かっていても、つい、高校時代のトラウマが私を消費に走らせる。
ブサメンコンプレックスと、貧乳コンプレックス
高校時代、クラスのAちゃんに「あの子、まだブラしてないよ。やばくな~い?www」と陰口を言われて以来、自分は胸がない=女失格だと思い続けてきた。思春期に「女失格」の烙印を押されるというのは、すなわち「男から欲望されない、暗い青春期を送る」ことを意味する。多くの女子が男子の目を気にする10代に、女失格のスティグマを押されるのは苦しかった。Aちゃんは軽いノリで言ったのだろうが、私は今もときどき、「あの子、やばくね?」の言葉を思い出しては、彼女をちょっと恨んでいる。胸がなくたって、男は私を「女」として認めてくれるのだ、ということを知ったのは、もっとずーっと後のことだ。胸がないから、私は「男と喋る資格すらない」と思っていた。高校時代、私は男子に対して敬語を使っていた。こんなに胸がなくて、魅力的じゃない女でごめんね……みたいな卑屈さと、「胸がない私を、この男子はどんな風に見下しているんだろう」という猜疑心が、私に敬語を使わせた。特に薄着になる夏は、男と喋るのが怖かった。今思うと、あの「貧乳コンプレックス」は、男子の「ブサメンコンプレックス」や、「低身長コンプレックス」と似ている気がする。私は女だから想像するしかないが、女子から「あいつ、不細工だよね」「背低いよね」と笑われた男子が、女全般をおそれ、憎むようになるあの感じ。貧乳だから男にモテない、女失格だというコンプレックスは、不細工・低身長だから女にモテない、男失格だという闇に、少し似ている気がする。
2週間で胸がCカップになるという商品、1万円で購入
それでも一部の「貧乳」や「ブサメン」「低身長」は、異性にモテたくて努力をする。私だって、貧乳を隠そうとファッションを工夫したり、雑誌の後ろに載っている怪しげな「バストアップサプリ・グッズ」に手を出したりした。そのひとつが「アッ◯ルC」なる商品だ。高校3年が終わった春休み、私には「これから長く付き合うであろう」と思える彼氏ができた。つきあうということは、男女の仲になるということだ。この付き合いの延長上にはセックスがある……と思うと、ワクワクしつつも恐ろしかった。何が何でも胸を大きくしなければならない。そうしないと嫌われてしまうと思った私は、ティーン誌の広告を見て、「アッ◯ルC」を注文したのである。知らない方も多いと思うので解説すると、その商品はA~Bカップの女性用で、形はヌーブラそっくり。つけているうちに、乳腺が刺激され、いつの間にかCカップに成長しているという代物である。今思うと全く医学的根拠がなく、「こんなグッズで胸が大きくなるなら、みんな買ってるわ! コノヤロー」と叫びたい。が、私は藁をもつかむ思いで、貯金していたお年玉から1万円以上を出し、商品を手に入れた。親にばれないよう、届くまではずっと自宅に待機。こっそり受け取った。「これで私も憧れのCカップになれるんだ、堂々と『女』をハレるのだ!」ワクワクしながら箱を開ける。そこにはシリコン製のブラ状カップが2つと、マッサージジェルが入っていた。1万円以上した商品だから、大事に扱った。毎日寝るときにつけた。やがて説明書通り「2週間で夢のCカップ」が手に入る……わけもなかった。アッ◯ルCは、「豆乳とキャベツを食べ続けたら巨乳になるらしいよ」という噂と同じくらい、バカバカしい代物だったのだ。
胸を大きくするには、太るか、豊胸手術しかない
それから数年が経ち、私は「胸を大きくするには、太るか、豊胸手術しかない」という事実を知った。大学生になって数年目の夏、美容外科のカウンセリングへ行ったからだ。医師の説明を聞いた。
「今の技術では、ヒアルロン酸注入とシリコンバッグ挿入が主流です。ヒアルロン酸だと、効果はだんだんなくなっていくので、半永久的なものをお望みならバッグですね。価格は安くて◯十万円から。ワキのあたりを切って入れていきます。麻酔だから痛くありませんよ。でも、終わった後はバンテージを付けて、しばらくは入浴も控え、マッサージを続けていただきます」
チキンな私には、とてもできそうもなかった。「……また考えます」と弱々しくつぶやき、美容外科を後にする。楽して、1万円程度のグッズで胸を大きくしようとした自分がバカだったのだ。本気で胸を大きくしたいなら、ハイリスクハイリターンの手術しかない。もちろん、胸を大きくしたい人は、すればいい。豊胸の技術は日々進化しており、最近ではより自然な「アクアフィリング」なる施術もある。が、やはり新技術なので、価格は高い。そこまでして、私は胸を大きくする必要があるのか。そもそも誰のために? 小さな胸に引いていく男なんて、私の人生には必要ないじゃないか。そもそも自分だって、身長や顔だけで男を判断していない。男が胸「だけ」で女を判断しているなんて、怯えるのはバカだった。私は、胸の大きさに一喜一憂する高校生の頃とは、明らかに違う自分になった。一生、この小さな胸と付き合っていくんだ。
北条かや
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。最新著書は『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
【Twitter】@kaya_hojo
【Facebookページ】北条かや
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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執筆:
北条かやライター
1986年、石川県金沢市生まれ。ライター。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『こじらせ女子の日常』(宝島社)『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)。その他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』(いずれも星海社)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
同志社大学社会学部卒
京都大学大学院文学研究科修士課程修了
民間企業勤務を経てライター、著述家として活動
出演
『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)
著書
『キャバ嬢の社会学』(2014年星海社新書)
『整形した女は幸せになっているのか』(2015年星海社新書)
『本当は結婚したくないのだ症候群』(2016年青春出版社)
『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(2019年青春出版社青春文庫)
『こじらせ女子の日常』(2016年宝島社)
『インターネットで死ぬということ』(2017年イースト・プレス )
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